No.307『もらったものは、すぐに他人に渡す』
人から愛されたいのに、なかなか愛してもらえない。
受験が近づいているのに、勉強に身が入らない。テストの点数が上がらない。
職場の人間関係がうまくいかない。仕事がつまらない。
精一杯努力しているのに、報われない。自分は無能で、無価値な人間なのか。
人生がうまくいかずに、自己嫌悪に陥りそうになったときは、「何のための努力か」ということを考え直してください。
自分で自分が嫌になってしまう人は、きっと「自分が得をするための努力」を行っているのです。
いい恋人を見つけて、友人に自慢したい。
いい大学に入って、優越感に浸りたい。
いい仕事を見つけて、楽な暮らしをしたい。
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しかしながら、「自分が得をするため」という動機は、なかなか長続きしないものです。
恋愛も、仕事も、人間関係も、結婚も、簡単に思い通りにはいきません。うまくいかないことのほうが多いでしょう。
自分がどれだけ得をするか。他人が自分に何をしてくれるか。
そのような「自分が得をするため」の努力は、その目標が達成されなければ、すべてが無になったような気がして、何もかもが嫌になってしまうのです。
「人生がうまくいかない」と嘆いている人は、両手いっぱいにものを抱え込もうとして、「たくさん抱え込むこと」が「人生がうまくいくこと」だと思っているのではないでしょうか。
しかし、両手いっぱいに荷物を抱え込んだ状態では、新しいものをつかむことはできません。ただその「過去の重荷」だけを背負って歩くことになってしまいます。
「もらったものは、すぐにほかの人に渡す」というつもりでいれば、心はつねに身軽でいられるのです。
テレビ番組などで、よく「風船爆弾ゲーム」というのがあります。
だんだんふくらんでいく風船を手にもち、クイズに答えたら、次の人に風船を渡します。風船が破裂したときにもっていた人が負けです。
「自分が得をすること」も、この風船のようなものです。ほかの人から渡されたら、なるべく早く誰かに渡さなければなりません。
自分のところで止めた人が負けなのです。
「いや、風船をほかの人に渡したくても、誰も自分に回してくれないのだ。もっていないものを与えようがない」という人もいるかもしれません。
しかし、そういう人はおそらく、風船をひとり占めしようとしているから、誰も渡してくれないのです。
風船を手にしたとき、ほかの人に渡そうとせず、どこかにもって行ってしまうのは、ルール違反です。それでは、ゲームがおもしろくありません。
「風船を奪おうとする人」には、誰も風船を渡してくれないのです。
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「私がこんなにつらい思いをしているのに、誰も私の気持ちを判ってくれない」という不満をもっている人は、こう自分に問いかけてみてください。
「私は、自分よりも恵まれない立場の人の気持ちをどれだけ理解しているだろうか。また、少なくとも理解しようと努力しているだろうか」
誰も自分の話を聞いてくれないのは、これまで自分が他人の話を真剣に聞こうとしなかったからです。
負けてくやしいのは、自分が勝つことしか頭にないからです。
プロ棋士の内藤国雄九段が、子供のころ、将棋に負けて落ち込んでいると、母親がこう言って慰めてくれたそうです。
「負けたってかめへんやないか。かわりに相手の人がよろこんでくれてはる」
自分のためだけに将棋を指しているのではない。勝つ人がいれば、負ける人もいる。相手がいるからこそ勝負が成立するのだ。自分が勝ったときには、負けた人の気持ちも考えなさい、ということなのでしょう。
他人から親切を受けたら、すぐにほかの人に親切を返す。
自分が愛してもらったら、その倍の愛情を返す。
偉い人間にならなくても、他人をよろこばせる人間になりたい。
「もらったら、すぐにほかの人に渡しますよ」という態度を示している人には、きっと誰かが風船を渡してくれるでしょう。
自分が風船を受け取って、クイズに答えたら、ほかの人に渡す。その間、自分はゲームを楽しんだのですから、それで充分なのです。
幸せや楽しみとは、自分の中にため込むものではありません。「受け取ったら、すぐに渡す」という、人と人との流れの中に存在するのです。
(おわり)