No.201『信じれば、だまされない』
恋愛に臆病になってしまうおもな原因は、「裏切られるのが怖い」ということです。
恋人に突然振られたり、浮気をされたりして、「こんなつらい思いをするくらいなら、恋愛などしないほうがましだ」と悲観してしまうのです。
この「裏切られた」という思いには、大きく分けてふた通りの前提があります。
「私を愛していると言ったくせに、その約束を守らなかった」
「せっかく私が愛してあげたのに、それに応えてくれなかった」
言い換えれば、ひとつ目は「相手に愛を強要すること」、ふたつ目は「自分の愛を押しつけること」です。
どちらにしても、「嫌われたくない、認めてほしい」という自分の欲求が先にあったことが判ります。
裏切られる不安をなくすための第一の方法は、自分の欲求を相手に押しつけないことです。
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といっても、馬鹿正直なお人好しになればよいというのではありません。
愛は与えるものだと言いますが、実際、人間関係は「ギブ・アンド・テイク」で成り立っているものであり、どちらか一方が我慢をする関係というのは、長続きしません。
「してあげること」と「してもらうこと」のバランスがとれているのが、健全な関係と言えるでしょう。
重要なことは、「してあげること」「してもらうこと」に対する心構えです。
他人を信じるとは、自分の相手との付き合い方の姿勢を明確にすることなのです。
恋人を信頼できず、携帯電話を盗み見たり、いちいち怪しい行動を問いつめたりしてしまう人は、「いっさいの疑念が払拭できれば、信じることができる」と考えているのかもしれません。
「信じるために、疑う」という矛盾することをしているわけです。
しかし、他人を疑えば疑うほど、「巧妙にごまかしているのではないか」と、ますます疑いは強まってしまうものです。
「他人を信じたいが、裏切られるのが怖い」と悩んでいる人にとっての「信じる」ということは、「相手が自分の思い通りになることを要求する」ことにすぎないのです。
「他人に振り回されてばかりいる」というのは、実は、「他人を思い通りにしようとする自分の利己心に振り回されている」のです。
「私は相手のために尽くしてきたのに、裏切られた」と嘆く人は、「私だけが犠牲になって、損をした」と思っているのでしょう。
相手の言うことは何でもきいてあげたし、喜ぶことは何でもしてあげた……。しかし、そもそも「そうしてまでも相手に好かれようとした」のは自分です。
「してあげたこと」が、相手を思いやる優しさからではなく、自分が好かれるための手段にすぎなかったから、報われなければただの骨折り損だとしか思えないのです。
相手に傷つけられる前に、「私は、そこまで自分を犠牲にしなければ相手に受け入れてもらえない人間である」と、自分で自分をおとしめていたのです。
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また、「相手が〜してくれなかった」と嘆く人は、そもそも、相手を「自分にとって役に立つ人間か、どうか」という目でしか見ていなかったのです。
相手に裏切られる前に、自分も相手をあなどっていたのですから、文句は言えません。
本当に他人を「信じる」ということは、自分の利害を離れて、相手の心と向き合い、相手がどういう人間であるかを理解するということです。
心から信じれば、だまされることはありません。信じれば信じるほど、相手の嘘を見抜けるようになります。
いえ、「嘘を見抜く」などといういやらしい言い方をしなくても、他人の心とまっすぐに向き合えば、嘘は自然に見えるようになるのです。
「相手が信頼できる人間か、どうか」ということは、相手の人間性のみによって決まるものではなく、自分との関係の中でつくられていくものです。
他人を心から信頼すれば、相手はそれに応えようとします。
他人を疑えば疑うほど、相手は自分を裏切るようになります。
自分が信じることによって、本当に信頼し合える関係を築くことができるのです。
もともとだますつもりで近づいてきた人でも、心から信頼されれば、たいていの場合は、「この信頼を裏切るわけにはいかない」と思い、心を改めるか、そっと離れていくことでしょう。
中には、それでもだまそうとする心ない人間もいるかもしれませんが、そんなちっぽけな人間のできることなど、たかが知れています。
こちらから何かを押しつけたり、相手に要求したりしなければ、何も失うものはないのです。
孔子は、「論語」の中で、「他人が自分を判ってくれないことを気にかけないで、自分が他人を理解していないことを気にしなさい」と言っています。
他人に裏切られてしまうのは、相手を理解しようともせず、自分を押しつけてしまうからです。
信頼は、まず相手を理解することからはじまります。
「裏切られるのが怖いから、他人を信じられない」というのは、間違っています。
信じる人は、だまされないのです。
(おわり)